「日の名残り」と「羅生門」を観賞。あとピカデリーに行ってきた。これだけ自由に動き回れるのも今月いっぱいなんで、ともかく映画を観ておきたいので消化が早くなってきたでごわす。
「日の名残り」は監督も作品もまったく知らなかったんですけどアンソニー・ホプキンスが主演ということで観ました。うん、ホプキンスがずっと画面に出ずっぱりなのでホプキンス萌えな方にはオススメ。なんたって執事のホプキンスですからね。どうでもいいんですけど、この人「マスク・オブ・ゾロ」のとき意外はずっとおじいちゃんってイメージなんですけど、二十年前からすでにおじいちゃんだったというのが結構驚きではあります。最後の騎士王のときとそこまで変わってないんだけど、今作のホプキンス爺様。
さて、そんなホプキンス爺様が仕事に誇りを持つ執事を演じているわけですが、戦争の時代を描いている割に画面的にはドンパチはない。カズオ・イシグロという日系イギリス人作家の小説が原作になっているんですが、第一次大戦と第二次大戦と戦後の年代を回想の中で行ったり来たりする構成になっていて、タイミング悪いところで目をそらすと少し混乱する作りになってたり。
アカデミー賞8部門にノミネートされているらしいまあ納得。特に美術と衣装デザインに関しては。あれは実際の豪邸をそのまま使ったらしく、その上今では一般公開されているとか。ロケもそうですけど何よりホプキンス爺様のメガネがいいんですよねぇ。
そんな爺様は仕事一筋なんですが、果たしてそれっていいことなのかしら? 執事とはただ雇い主に忠誠を誓い何事よりも仕事を優先する。たとえば、その主が間違ったことをしているとわかっていても。たとえば、実父が死んでも。
とまあ、自我を排除して仕事に徹することで何かを失っているんじゃないかしら。ってこと。結婚すると言ったときのエマ・トンプソンの面倒くささって、たしかにかまちょと言ってしまえばそれまでだけれど、それはとりもなおさず彼との間に絆ができたことの証左でもあるわけで、「めんどくさい女だなー」とは言えない。この辺で、唯一ホプキンス爺様が露骨に感情を顕にするんですよね、ワイン落としちゃって「damn!」って。
あとクリストファー・リーヴが出てた。新聞記者のくだりはクラーク・ケントネタかなーとちょっと笑った。
地味に好きな映画かもこれ。
さてさて羅生門。てっきり髪の毛の方かと思ったんですがなんかまったく知らない話だった。と思って調べたら芥川から「藪の中」も持ってきていたらしい。あれか、「魔王 juvenile remix」みたいな感じか。こっちは読んだことくてまったく気付かなかったんですが、後から青空文庫で読みましたです。ええ、短いしタダだし。科白に置き換えられたことでかなり印象が違う。特に多襄丸。三船敏郎のせいで完全にやばいやつになってますがな。
しかしこれ、原作を知らない方が楽しめる気がする。全員が全員、迫真で真実(彼ら自身にとっての)を口にするものだから、誰が一体正しいのかわからないし、だれもが正しいとも思えてくるわどれもが疑わしくも思えてくる。そういう意味じゃ、人間の醜さを全面的に描いているだけじゃなく、ある種のミステリーっぽくも見える。
とはいえ、かなりアレンジが加えられているし、ラストの方や原作にはなかった「実は…」という展開も実に皮肉が効いていてよろしい。白黒映画ということもあって影と光が映えるのも、普段はカラーで見ている分余計に強く感じる。草葉の影と陽の光で三船敏郎の顔が陰陽のようになっているのとかすごいかっこいい。もちろん、三船の顔面力ありきなんだけど。というか、あらためて三船の唯一無二性に気づかされた。この人眼力もそうなんだけど、瞬き全然しないんだよなー。それが余計、ヤバさに直結している。すごい純粋さと粗野な部分を持っていて、七人の侍の菊千代の片鱗がここですでに見えている。
あとカメラワークも独特。今まではっきりとカメラワークでほかと違う感じのことをしているっていうのがわかったのは小津なんだけど、黒澤もあんまりほかでは見ないような撮り方をしている気がする。手前に人物の背中を配置しながら奥の方の人物に喋らせて、横にパンさせながらまた戻ってみたいな。
しかし最後の最後の志村喬の表情とか、あれってやっぱり悪意なんだろうか。とか色々と考えてしまう。ぶっちゃけ、三人が嘘をつこうとして嘘をついているのかっていうのは、実は怪しいところだったりするんですけどね。いや、作品的には意図的に嘘をついているんですけど、ただ人間の脳は本当に思い出を美化していたり都合よく書き換えているということが実証されているので、その科学的な本質を文学的側面から暴いてしまっているという意味で「怪しい」ってことなんですけど。
それとウィキの公開と制作の箇所が読んでていてすごい面白かった。まったく無関係のベトナム人が授賞式に出るってどういうことよ。あとまんま羅生門な映画会社の人間の話とか。
というか、そんな難解な映画かしらこれ。むしろストレートにわかりやすいと思うんですけどねー。
人の醜さを包み隠さず寓話として語ってるので、やや過剰な演技ではありますね。昔の日本映画って割とカリカチュアライズされているので某日系人は嫌いな演技なのかもしれませんね。
あと明後日公開のジェリーと恋と靴工場のプレスもらってきました。もらってきました、なんて書くとタダで配ってるように聞こえますが非売品ということらしいので劇場に行ってももらえないらしい。プレスっていうか厚みとか普通にパンフっぽいんですけど、明後日になれば普通に劇場で販売するんじゃないのかしら。違うのかな。