dadalizerの映画雑文

観た映画の感想を書くためのツール。あくまで自分の情動をアウトプットするためのものであるため、読み手への配慮はなし。

33年前への提言

1984」を引き合いに出すまでもなく、管理者会ディストピアものというのはたくさんあるのでしょうが、一番メジャーなので引き合いに出してみた。

というのも、「ザ・サークル」はこの「1984」に至る前日譚的なお話であるからどす。

ぶっちゃけますとサウスパークですでに面白おかしく風刺しているものではあるので(前のシーズのハイディ関連とか、レミウィンクスの話とか、まあいろいろ)、そちらのほうが「ぶってない」ので気軽に見やすいです。

だからといってこの作品の価値が上下するということではないのですが。

 

今回はパンフを買わなかったので印象批評的になりますが、よく考えたらいつもそんな感じでしたな。

とりあえず、SNSが云々と宣伝は言っていますが劇中で描かれているものはちょっと違うし、公式サイトの「「いいね!」のために、生きている。」なんて寒いキャッチコピーなんか的外れもいいとこです。や、SNS(というかその使い方)批判をしたいというのはスクリーンから伝わってきていますから、前者に関しては間違ってはいないのですが、言い方のせいで問題を矮小化させているのがどうなの、と。

観りゃわかりますが、メイは何も「いいね!」を欲しいがためにサークルのプロジェクトを担当することになったわけではなく、家庭の状況やサークルという企業内システムに知らないうちに取り込まれてしまい、その成り行きの結果といった受動的な作用によっていますし。むしろ、彼女はこのプロジェクトに関しては両親のケアという側面を除けば割と否定的な感情を持ち合わせてもいます。少なくとも最初からノリノリというわけでもプロジェクトの最中もずっとノリノリというわけではない。そういう予告とかキャッチコピーにしたほうが客を呼べると配給が踏んだわけだろうし、別にいいんだけどそれでいいのかと思わないでもない。

まあ映画を見る目的は「騙されに行く」ことにあるので、メタ的に見ればかろうじて許容できなくもない。

サウスパークを引き合いに出しましたが、こちらも割とギャグいです。むしろ大真面目にやっているため(少なくとも劇中では)、シュールな笑いという意味ではサウスパークよりも上品ではあるし、実在の役者が演じるライブアクションならではの可笑しみというものもありますからね。入社から一週間したところで社内プロフィールを作成していないことを告げにくる二人の社員の、あの何とも言えない「わかってるのかわかってないのかもわからないような誘導の仕方」の畳み掛けは、かなりの笑いどころ。ほかにも終盤のトム・ハンクスのニコニコしてるのに焦ってる表情とか、細かい部分で笑えたりするし、ほかにもマーサーの事故のあとにメイが両親と通話していた直後に画面の外にいる人物から声だけの励ましをもらう部分の血の通わなさとか、上手い部分も結構あった。

原作・脚本を担当したデイヴ・エガーズが原案の「プロミスト・ランド」は結構面白かったし、基本的に社会派な作家ではあるのかな。「王様のためのホログラム」は見てないから全然わからないんだけど今回のとはかなり毛色が違う気がする。

 

演技者に関しては、まあ、小説を二時間の映画に収めるための取捨選択の結果として人物を物語の傀儡にすることを選択したのは無難といえば無難ですし、それゆえに大衆を牽引できるポップでキャッチなアイコンとしてエマ・ワトソンを起用したという狙いの意図も明確だけれど、その作劇プランによって物語による肉付けを欠きエマ・ワトソンという役者にメタ的に寄りかかっている使い方をしているために、メイの人間味はかなり希薄になっているのは残念といえば残念か。そっちは切り捨ててシステムに翻弄される社会(とか会社とか個人(といっても一人の人間としての個性というものではなく、全体の相対としての個)とか)を描いているので、ないものねだりではあるんですが、自分の目指すところとは違うのでハマるということがなかったのががが。

あと野暮ったい美人を演じるカレン・ギランは演技自体は素晴らしいんですけど色々と過剰すぎるきらいがあるので、この辺はもう少しセーブさせたほうがよかったように思う。

ジェニファー・ローレンスあたりに演じてもらってどんどん壊れていく感じで映画を作ってくれるか、メイ本人もそれを全部良しとしているような完全に狂った世界として描けばあるいは爆発力を持った作品になったかもしれないけど、このバジェットだと難しいだろうしそもそも原作ありきで原作者が参加しているとなるとそれは無理だったんでしょうな。ていうか、再三わたしが言及しているようにハナから監督はそういうものを描こうとしているわけではないし。

 

ただし、ラストをちゃんと(?)バッド・エンドにしてくれたのはすごい良かった。メイがラストでトム・ハンクスに仕掛けた仕返しは彼女個人にとっての一瞬の勝利(しかも幻想の)でしかないことを、その直後のメイのカヤックシーンにおけるドローンが示しているし、とどめの一撃と言わんばかりにマトリックスな画面に持って行ってからのエンドロールというのはかなりいい感じ。そりゃ監視サービスを提供する側のトップが極秘資料まで公開したということは逆に言えば完全に「透明化」されたということで、サークルへの信頼感が絶対的なものになるというわけで、あのラストに繋がるのは必然ではあるわけです。まあ、実際には極秘資料のやり取りの中にやましいものがあって追求されてオシャカになるというのが現実的なのかもしれませんが、そもそもからしてサークルをリアルな企業として描いていない(というかリアルなキャラがそもそもいない)のでそこはモーマンタイ。

そうそう、冒頭のカヤックシーンとラストのカヤックが対比になっているのも芸コマです。

 ちなみに

『エガーズ自らも参加して完成した脚本のラストは、原作とは異なっている。ポンソルト監督は、「デイヴと僕は、エンディングは小説の“テーマ”には忠実に従おうと話していた」と説明する。「小さな勝利と多大な犠牲を払って得た勝利、そのどちらもメイに与えた。メイ個人にとっては、破壊的な結果ではあるけれどね。それは、プライバシーのすべてを他者と分け合い、完全な監視社会へと足を踏み入れることを恐れない若い人々によってもたらされる未来だ。『プライバシーは過去の遺物よ』と言うメイを、“ヒーロー”と捉えるのは明らかな間違いだ。しかし、彼女が人を惹きつけるのもまた事実だ」』

とプロダクションノートでも言及されているとおりですから、完全にディストピアまっしぐらであることは意図しているところでしょう。

ここまで清々しいバッド・エンドは地味に「ライフ」以来ではなかろうか。

 

あと音楽も良かった。サントラちょっとほしいかも。

1984の前日譚に(そんなものがああれば、ですが)バトルランナーを少々といった塩梅の作品で、ぶっちゃけ佳作という感じではあるんですが、前述したように笑えたり上手い箇所があったりするのでどちらかといえば好きな映画ではあるし、あのエマドヤ顔幻想勝利が文明社会にとっては敗北でディストピア一直線なラストが結構ツボなので。

 

ただまあ、なんというか、SFでは描かない「その世界に至るまでの過程」を描いてしまったせいで(しかも極めて短いスパンで)、説得力を欠いているというのが難点かと。いや、そこを詳しく描いたらそもそも時間は足りないしそれこそ膨大な量の考証を重ねなければなりませんし、そもそもそれそのものが一つの大きなテーマとして扱われるものであるわけですから、基本設計の時点でやや無理があるポイントではあったのだと思ふ。まあ制作もそれをわかっていたからモンタージュで細かい過程を省いたんでしょうけど。それゆえにメイの感情の動きが掴みづらいという別の気になる部分が生じてくるというのもあるんですが。

え、1984だってすでに監視社会になっているところから始まりますし、監視社会でなくともたとえば「新世界より」だって呪力は所与として有している時点から始まるわけで、その世界に至るきっかけとなる起点に触れられることはあっても過程が描かれることがないのは、つまりそういうことでしょうし。や、SFにそこまで詳しいわけではないので探せばあるのかもしれないけど、少なくともわたしは知らん。え、「新世界よりゼロ年がある」って? あれは読んでない(爆)し、そもそも連載小説だから書けるわけで。しかも2011年から始まってまだ連載してるらしいじゃないですか。そんだけの時間をかけられれば貴志祐介なら描けなくもないんでしょうが、こっちは映画ですし。

それとSNS表現についてもう一つ。

監督はプロダクションノートにてこんなことを述べているが↓

「スクリーンにはSNSの画面が、そのまま映し出される。この編集テクニックの意図について、ポンソルト監督はこう説明する。「メイがプライバシーのすべてを24時間さらけ出す "透明化"を始めてからは、画面上のメッセージが物語の展開において重要な役割を果たす。だからメイのフォロワーから届く、圧倒されるほど大量のコメントを視覚的に表現したかったんだ。後略」

これはどう考えても不足でしょう。そもそもの表現として手垢が付いているということを考慮しても、画面上のメッセージの量は数百・数千万単位のウォッチャーがついている割にはあきらかに少ない。ここはもういっそ画面を埋め尽くすほどのメッセージでやったほうが面白かっただろうし、それがしばらく続くように仕向けてもいいとは思う。この規模の映画ではそんなアホらしい表現はできないのかな。 

 

そんなわけで全体的にはそこまで熱量があるわけではないけど、部分的には結構好きだしラストに関してはかなり好き、といった具合でした。