dadalizerの映画雑文

観た映画の感想を書くためのツール。あくまで自分の情動をアウトプットするためのものであるため、読み手への配慮はなし。

それでもこれは、どこかの誰かの話なのだと思える

まいった。

オールタイムベストに届くか届かないかといったぐらい、自分の好みの映画だった。

「25時(原題:25th hour)」

何が好みなのかって、それはまあ「マンチェスター・バイ・ザ・シー」的な、と言えるかもしれない。あそこで描かれるマンチェスターの町並み以上に哀愁の漂う(というか人物たちが漂わせているのだけれど)ニューヨークという街が、すごくたまらない。ちょっと、というかかなり違うけどちょっと近い感覚としてGTAで雨の降る夜の時間帯の街を車で走っているときのような。

何が言いたいのかというと、「夜明け前の空が白んでいない時間の尊さ・儚さ」みたいなものがこの映画の全編に渡って支配しているというか。始まりからして真夜中(と思われる)の道路を車で飛ばすノートンですからね。もちろん朝や昼間のシーンもあるのだけれど、それでもやっぱりミッドナイト感がある。

けれど、言葉として言い表すにはどうにも難しい類の「情感」や「雰囲気」や「距離感」といったものばかりで、まとめのほうに押し込まず単独でポストしたものの文字数がかなり少なくなりそうな予感。

 

主張しすぎず、物悲しさをそれとなく演出する音楽もいいし使いどころもいいですよね。無常観というか。

 

あと役者ね。ノートンがこの役に選ばれたのって「ファイト・クラブ」の影響っていうか、その反動もあるんじゃないかなーってくらい、すごくやさぐれていて萌える。まあ豚箱に行くまでの25時間の物語だから当然っちゃ当然なんですけど、自暴自棄に「何もかもくそくらえ!この街もあいつもこいつもどいつもこいつも全部クソだ!そんなこと

 を考える俺が一番クソだ!」といったやり場のない憤りや後悔といったものが、あのトイレの鏡の前で一気に吐き出す演出と相まって切なくなってくる。周りに当り散らすのは、何よりもそれが自分の自業自得が原因であることを理解しているから。それでも当り散らさずにはいられない、そんな葛藤まみれの独白に心を揺さぶられないわけがない。時事ネタでいえば、アベンジャーズ絡みだと「シビル・ウォー」で社長がファルコンを撃ったときにも近しい感情があって良かったなーと思い出した。

バリーペッパーのあの小生意気で下世話で下品だけど、友情に厚い有情な役柄なんかもいいですよね。最後のほうで泣きながらノートンを殴るシーンのどうしようもなさややりきれない気持ち。

多分、本編のあとに一番しれっと社会に溶け込むタイプではあるのだろうけど、内心ですごく抱え込んで自殺しちゃいそうな危うさもある。

それとシーモア・ホフマン。ちょっとマット・デイモンに似ているんですよね、この人。なんというか、何事もなさなかったverというか。踏み出す力より踏みとどまらせる自律心が勝ってしまう人間というか。

そういう意味では、この人もかなり危うい場所に立っている気がするんだけれど、ノートンに尺が割かれているのでその後にどうなったのかが描かれないのが惜しい。最初は「130分とか長いなーだるいなー」なんて思っていましたが、見終わった今となっては「あと10分だけでいいからホフマンのその後を!」と思う。

まあでも、この世界だとこの人の行動の結果はよろしくない方向に向かいそうではある。あとねー細かいところですけどバリペとチャーハン食ってるときにね、手が震えてるんですよ、色々言われて。彼はすごく繊細なんですよ。すごく繊細で、だけどノートンみたいな悪友とも仲がよくて、おそらくは彼なりの葛藤があったはずなのですよね。

 

けれど、遠目からのショットとバストショットをうまく使って一定の距離を保っている感覚とかもあって、決してウェットになりすぎない大人な振る舞いが活かす。

スパイク・リーの傑作だと思う。