dadalizerの映画雑文

観た映画の感想を書くためのツール。あくまで自分の情動をアウトプットするためのものであるため、読み手への配慮はなし。

恋のゆくえとかそういう矮小な問題に押し込もうとするからいかんのです

邦題のダサさときたらまったく・・・。

あまつさえ、原題の前にくっつけてくる面の皮千枚張りっぷりには乾いた笑いが出てくる。

「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」

原題はスラッシュの後ろの部分だけなんですが、これ別に恋のゆくえそのものがメインなわけじゃないんですけどね。

監督・脚本はスティーブ・クローブスという聞きなれない名前の人なんですが、どうもハリーポッターシリーズの不死鳥意外の全てに脚本で参加しているというよくわからない経歴。あとファンタビにも製作として参加してはいるみたいですが、それ以外に目立ったフィルモグラフィーはないんですな。

そんな彼の監督デビュー作がこの「ファビュラス~」なわけですが、まあバーカーの方の元ネタという部分に反応しただけでそこまで期待していなかったのですが、思いのほか良かった。

 

映像的にすごく印象に残るっていう部分はないんだけど(それでもホテルのベランダで三人が話しているときに背景としてちょっと映る夜景とかいい感じ)、すごく普遍的な話ではある。30~50代くらいの働き盛りの人が観たらかなり共感するような部分があるはず。

それなりにピアノの才能がある弟ジャックと、彼のような才能はないけどマネジメント力があって世渡り上手で家庭もある兄のフランク。この二人は連日連夜バーだかホテルだかでピアノを演奏してカネを稼いでいるしがない兄弟のピアニストコンビなんですが、諸行無常から映画の早い段階で「来週から来なくていいから」と肩を叩かれてしまう。ここで契約を切られてしまう理由がひとえに集約されていないというのもまた地に足がついているバランスで好感が持てる。

そういえば、この映画はジャックがワンナイトスタンドを終えて着替えているシーンから始まるのですが、一夜を共にした女性が「あなたの手、最高だったわ」と言うのが粋である。粋、というかオヤジギャグではあるんですが、このあとにジャックがピアニストであることが判明するという中々こじゃれたオヤジギャグではあって、こういう些細な部分が割と自分は好きだったりする。普通に乳首が見えていたのですが映倫はどうやってレート決めたんだろう。

ジャックがピアノ演奏しながらタバコを吸っているというのも一つの要因ではあるだろうけれど、それだけではなく「ラジオスターの悲劇」的な要因だったり、ベイカー兄弟の問題やオーナーの人格という人に起因する問題だけでなく、それらの人が集まる「場」そのものが変容しているがために、というのがそれとなく指し示されてもいたりする。ま、単純にオーナーの人格的問題がでかいような気もする箇所もあるんですが、これが後々意趣返しされる展開はベタだけどスカッとしますし、いい感じではないでしょうか。

そんなわけでピアノだけでは(´Д⊂ モウダメポとなったベイカーズは歌手を向かい入れることになるわけですが、「シング」並のテンポでオーディションシーンが展開されていき、「主役は遅れて登場するもんだろ?」と言わんばかりに90分遅刻してきたスージーが横柄な態度で二人の前で歌うのである。

ええ、ベタすぎる。30年前の映画とはいえ、この展開はあまりに王道すぎて逆に今時珍しいくらい(今時じゃないから当然か)です。

で、ここから3人ユニットで大活躍を見せるわけですが、兄の忠告にもかかわらずジャックがスージーとファックしてしまい、雲行きが怪しくなっていく。スージーは引き抜かれ、ベイカーズはまた振り出しに戻り地道な営業から始めなくてはならなくなる。しかしそんな折に舞い込んだ深夜のテレビの仕事でコケにされたジャックはとうとう堪忍袋の緒が切れてしまう。

もちろん兄貴も怒ってはいるものの、彼には家庭があってローンもあって、安定した収入を得なくてはならない。だからせっせとマネジメントして仕事を食いつないできた。

それとは対照的なジャックが衝突するのは必然だったわけで。

個人的にはここの二人の言い合いからのだっさい取っ組み合いが好き。二人の不器用さとか、どうしようもないけどそうやって生きるしかない体たらくが。

イカー兄弟というのは、誰もが持っている両価性を二人の人間に分けてできたキャラクターであるはずですから、どちらも基本的に間違っていないというか共感できる部分があるというのがやさしい作りだなーとわたしは思いますです。

それに、このあとにいやいやだった仕事のことを笑いながら話しあって、酒を酌み交わしながら小さなピアノを弾いて・・・という展開があったりもするんで。

スージーとジャックの最終的な距離感というのも絶妙だし、そこで終わらせるというのもそれぞれの新たな出発としていい塩梅ではないでしょうか。

基本的には生暖かい監督の視線に溢れる作品だと思うので、それが合わないという人もいるやも。とはいえかなりテンポはいい映画ですし、前半は特に30分でスージー合流からの一時的な成功まで描かれちゃうくらいなんで飽きるということはない。ただ、先程から書いてきたようにベタベタで展開が読めてしまうので、そこはまあちょっと合わない人もいるかも。そういう意味では、やや教科書的すぎるきらいのある映画ですが、それでも誰もが思い悩むような問題を提示しつつ、それでも「なんとかなる」感じ(決してハッピーエンドでもビターエンドでもない)で終わってくれる良心的な映画だと思います。