dadalizerの映画雑文

観た映画の感想を書くためのツール。あくまで自分の情動をアウトプットするためのものであるため、読み手への配慮はなし。

「ハスラーズ」の試写会に行ってきたんだけど腹が立ったので「パニック・トレイン」を誉めそやすことにするよ

というわけで勢いそのまま「パニック・トレイン」の感想を単独ポストすることに。

あまりに腹立ったんで二回連続で観たよ!観直したよ!やっぱり良い映画だったよ!

 

超良作。いや、本当に良かったですこれ。いやもうね、パパが最高。

ただ邦題のせいでパニックムービーと思われそう(自分もそう思っていた)ですけど、全然違いますよこれ。いわゆるアクション要素もあまりないですし。とはいえ原題も「LAST PASSENGER」だしひっかける気が皆無とも言い難いような気がしますが、そういうのを求めてこれを観にくる人はちょっと肩透かしを食らうかもしれませんね。
ジャンル云々は抜きにしてこの映画はかなり良いと思うんですけど、そういうのを求めてたのに~って怒る観客って一定数いるので。別に思ったのと違っても良い映画だった良いじゃんと思うのですがね。

で、思いのほかいい映画だったわりにあまり有名どころのキャストもいないし(ダグレイ・スコットは「MI:2」の敵として出てたので言われれば分かる人ですが)監督も名前を耳にしたことがなかった(自分が無知なだけ?)し、製作のスタッフにやたらと日本人の名前(日系?)があったのも気になって検索してみたんです。


 そしたらサジェストで「犯人」が出てくるじゃあ~りませんか。
既述のような懸念とサジェストに登場した不穏なワードへの不安もあって、作品そのものについて調べるつもりがいつのまにかレビューを眺めていて・・・そしたらやっぱりだよ!不安的中だよ!

脚本ガーとか警察ガーとか鉄道関係者ガー犯人の動機ハーとか言っている人もいるし、しまいには「犯人はヤス(自殺志願者)」とか断定している人もネット上で見られましてね、「あ~・・・」という諦念のようなものと「あ”~↑!?」という義憤に駆られ、試写会で観させてもらった「ハスラーズ」の感想をほっぽって(後でちゃんと書きますので、フィルマークスさん)怒りの全肯定でこの映画を誉めそやすことにした次第です。

いやね、冒頭に書いたように、最初から「これ結構良い映画じゃんすか」という肯定的な印象ではあったのですが、なんか映画自体に責任を転嫁する理不尽なけなされ方をしている気がしたので勢いそのまま「これは超いい映画なんです!傑作八作二毛作なんです!」と心にもなくもないことを書き連ねていこうと思う。いや少なくとも良作であることは確定的に明らかなので、それを傑作と言い張っても大罪にはなるまい。

一応、ちゃんと演出の意図を汲み取って褒めている人もいたんですけどね、褒めてる人の中でもなんか褒め方も適当だったり「上質な演出」とか、形としては褒めてる割に星の数は少なかったり(こういうことがあるから点数って信用できないんですよね)という人がいてね。まあ好き嫌いはあるのでそこはとやかく言いませんが。

それにしても、あまりにジャンルにこだわりすぎている人が多かったので、もうはっきり言いきっちゃいますよ!これはサスペンスでもミステリーでもパニックでもアクション映画でもない!そういう「ジャンル」に拘泥するだけの輩は甘えを排除してからもう一度観れ!

これはそういう原因究明の結果としての安直な「結果」を提示することを目的とした映画じゃなくて、映画としての(一応の)結末までの「過程」を微に入り細を穿った演出を堪能する映画なんですよ!

しかも監督一昨年死んでるし!43歳でこれが最初で最後の長編監督作だし!なんかもう褒めるモチベーション上がる要素しかないよこの映画!

てなわけで褒めちぎる。この映画を。


まずですね、「警察は何してるんだー」とか言ってる人、そういう「外部」を描いていないのは外界の描写を排除してることからわかるでしょうが!あんだけ徹底して列車の内部(窓越し)からしか外を映すカットがないんだから!

もちろん外から中を覗くカットはありますけどね、それでも決して外がわかるような撮り方はしてないんですよ。
ヤンくんの決死の骨折り損行為とかのシーンは外からですけど、そこにだってちゃんと意味や根拠はある。そのヤンくんのアクションシーンでは、人物が文字通り列車の外に出ていますし、終盤も終盤になって3人が乗った列車が切り離された後で駅のホームがはっきりと映しだされますけど、観ればわかるようにそれは3人がほとんど確実に助かったとわかる場面です。

電車が車をはねてしまうシーンだって電車の中にいる6人からはそれがどうなったのかほとんどわからないように描かれてるじゃん!それでも衝撃と燃えてる破片が窓の外をよぎっていく演出から何が起こったのかわかるようになってんじゃん!「内部」では何が起こったかよくわからないけど何が起こったのか自体はわかるように描かれてるじゃん!

ていうか望遠からとはいえ、ちゃんと電車が車を撥ねるカットだってあるんだよ!?ここが望遠なのは電車が車を撥ねるという瞬間のディテールを描かないことで6人の体感している「外で何が起こっているのかわからない」という緊張感や不安を観客に同期させるための演出でしょうが!

電車が車を撥ね飛ばすなんて美味しい場面をあえて電車内部から分かりづらく描いているのもそのためでしょうが!(予算の制限の工夫なのか、最初から狙っていたのかまでは断言できないけど)

息子が横に並んだ別の列車の車両の窓から女の子の顔が曇った窓2枚を挟んで見えづらくしてるのだってわざとなんだよ!そうやって6人が乗る列車は外界から切り離されているという「演出」をしているんです!

ていうか最初から最後までそれを徹底しているからこそだし、そもそも警察がどう動いてるかはわからなくても警察が動いていることは窓の内側から確認するシーンがあるじゃん!

この映画はそうやって、徹底して外界を描かないことで6人(5人)の人物に寄り添ってる映画なんです!

だから犯人の類推はしても犯人が誰かなんてことは明かされない。だってそもそも犯人が誰かとかこの映画にとってはどうでもいいことなんだもん。

それを踏まえたうえで「そういうのは興味ないんでドンパチ見せろ」っていう人ならわかる。けど、つまらないとか言ってる人の大半はそうじゃないでしょう?

そういう映画じゃないってことは、序盤であれだけ時間をかけて人物のやり取りを細かく切り取って演出している時点で、なんとなく察せられると思うんですけどね。

あと伏線がどうのこうの言ってる人、細かい伏線もちゃんと映像で見せていたりするんですよ。いや、伏線ではないか。暗示、布石とか、そういうのに近い。でもそっけないシーンで列車の連結部を自然にフォーカスしていたりするし、展開を示す伏線はあるよやっぱり。

 
で、そうやって細かく演出をしながら、この映画はあくまで人物を人物として描くことに徹底する。逆に言えば物語の進行に人物が回収されきってしまうことを拒んでいるともいえるかもしれない。それを嫌う人や「あの設定役に立ってないじゃん」とか言う人もいるだろう。

でもこの映画がいいのはむしろそこ。

それぞれの人物の属性があまり本編の目的となる脱出そのものには関係なかったり、あるいは属性を生かすことのできる場面にもかかわらずそれが機能しない無常さ、というのを描いている部分だと思うのですよ。

ストーリーに貢献するためではなく、ただ人物を人物として生き生きと見せるために付与された属性であるところから、この映画が徹底して人間を描くことに注力していることがわかる。だからマイケルは子どもとして描くために危うくドアから落っこちそうになる。それが何かの伏線になる、というわけではない。伏線になるのかもしれないという空気を漂わせつつもし、しかしそれはただあの子を生き生きとさせるためのシーンでしかない。

あるいは医者であるルイスが最序盤で隣の席の老女から新聞を借りて読むシーン。そこで彼が読んでいるのは陸上競技の見出しだし、そのあとでサラと三人で列車内を移動するシーンのやりとりで何気なくマイケルから発せられる「パパは走らない」というセリフが実は重みをもっているということが後々に判明する。判明はしても、そこをあえて追及することはないスマートさもある。

そういった細かいセリフや場面が彼のキャラクターにも関係してきますし、カップルがイチャイチャしてるのを眺めているのはスケベ心からじゃなくて亡くなった妻(この時点では明かされていない情報)との思いでを回想してるからだってことはダグレイ・スコットの表情が示してくれているでしょうよ!いやここはぶっちゃけ思い込んでるだけかもしれないけど、少なくとも2回目に観たときはそういう風に観えるんですよ!それくらい描かれてるんですよ人間が!

同じく序盤でヤンくんが乗客・車掌と揉める際の過剰なまでの挑発という「パフォーマンス」も、彼が大道芸人である(この時点ではry)からでしょうが!!!!

そういう細かい人物描写を事前にしっかりしているんです。

言っておくけどね!ハリウッドのパニック超大作じゃルイスがマイケルを寝かしつけるために自分のマフラーをたたんで枕代わりにしてコートをかけてあげるシーンをあそこまで優しく描いたりしませんからね!
ちゃんと観ましたか!?ルイスが優しく丁寧にコートをかけ直す描写してるシーンを!?ストーリーライン上はカットしても問題ないところを、そうやって細かな描写を積み上げて人間を作り上げてるんでしょうが!

だから今時恥ずかしい、それこそクリシェと言われてもしょうがない酒を酌み交わして友情が芽生えるようなコテコテのシーンでも感動するんでしょうが!

あっさり死んでしまうエレインにしたって、2つの人形やマイケルを座らせるための講釈、死に際にまで孫のことを口にすることでどれだけ彼女が孫想いの女性だったかが短い登場時間の中で示されている。だから観客と同期しているヤンくんは彼女の死にうろたえるし、それが逆説的に彼のつっけんどんなやさしさ(序盤でマイケルに手品を見せておどけるのもそう)が描出されるし、一方で現状を打破するために(医者であるにもかかわらず命を救えず、それでもなお蘇生を試みる無為無償の行為にふける)ルイスを煽る、薄情で怜悧な部分もあることもわかる。

セリフで説明されないだけで十分すぎるほど細かい描写がされているんですよ!

観ろ!人間を!(意味不明)

あれだけ奮闘する5人6人を観て、あれだけの父子の双方向の愛情(そう、父から子だけでなく子から父への愛も描かれているのです、この映画)を観ていながら「で、犯人て誰なの?」とか言う人はもう何も言わないのでミステリーだけ観ていてください。

 

あとオープニングクレジットが結構イカす気がする。