dadalizerの映画雑文

観た映画の感想を書くためのツール。あくまで自分の情動をアウトプットするためのものであるため、読み手への配慮はなし。

誘惑、そして一シ報いる

 

 クロード・シャブロルの「いとこ同志」という映画。世のマジメくんや私立大学の主に文系学生に見せたい映画ではあったかな(笑)。

50年代のフランス映画ということでどんなアート映画だろうか(偏見)と身構えていたら、意外や意外、普通に面白い映画でびっくり。寡聞にしてこの監督のことは知らなかったわけですが、戦前に生まれてゼロ年代に没しているのでかなりのキャリアがあって、やはり作品数も比例して多いのですが、どれも見たことないという体たらく。かろうじて「石の微笑」は耳にしたことがあってTSUTAYAで借りようとしたこともあったという程度(しかしTSUTAYAに在庫がなく断念)。

そんなクロード初心者(というか大体の映画についてはトーシロ)なわたくしですが、「いとこ同志」はそういうのを抜きにしても全然面白い。

大学で法学を学ぶために田舎から都会に引っ越してきたシャルル青年が、いとこのポールのアパルトマン(まったくの余談だがエルでこの単語を知った)に同居することになるのだが・・・ポールは放蕩の限りをつくし、きっかけさえあれば部屋で乱痴気騒ぎの日々を過ごすような男だった。そんなわけでポールに大学の案内をされるうちにフローランスという美女に出会い相思相愛の中になっていくのですが、最初からポールの部屋にいた親友のクロヴィスことジャンという男の誘惑によって三人(といっても実質はポールとシャルル)の世界に、当初からあった歪みがやがて隔絶へと繋がっていき、あの衝撃の(でもないけど)ラストに帰着する。

演出に関しては光による時間の経過描写やパンで空間を繋いだりする手法などは素直に面白いところではあった。なんとなく、部屋の感じや男女の関係性が伊丹の「ゴムデッポウ」っぽいなーと思ったり窓から覗く景色の感じが「天国と地獄」っぽいなーと思ったりしたのですが、まあ白黒映画で印象に残っているからというだけでそこまでの関連性はないでしょう。

 

まあ、話の流れは途中から読めてしまうんですが、中盤までは本屋のくだりもあって「放蕩の限りを尽くす者は破滅する」的な警句でも伝えたいのかなーと思ったりしていたのですが、まあそんな日本の勧善懲悪ドラマみたいな展開になるはずがなく、かといって「努力が報われない」ってだけじゃあまりに「そんなもんわかっとるわい」という半ば経験則からのヤケクソな不満しか湧いてこないわけですが、さすがヌーヴェルバーグというべきか、感情の流れや伏線の回収がごく自然でかなり上手い。

何よりあのラスト。個人的には予想通りではあるし、そもそも見る人によっては解釈が変わりそうではあるますが、わたしは「真面目な馬鹿より色ボケな卑怯者が人生において有利である」といった悲観主義者のシニシズム(と言い切るには現実は酷であるわけですが)を肯定しつつも、そんな連中に決して寄り添っているというわけではなさそうな、けれど一矢報いることはできるということの証明ではないかと思っています。

 ポールも「やっちまった・・・」って顔してましたしね。

 誘惑者としてのクロヴィスの甘言に従うと堕落させられ色欲に溺れるわけですが、もしも彼を悪魔と仮定するなら(というかそんな感じで描いているような気もするんだけどなぁ)、もしかするとその誘惑を拒否し続け対比として本屋の店主の助言通り勉強をしてから「夜を明かし」て死んだことを考えると、少なくとも地獄には行かなかったんじゃないかとも取れる。

バルザックドストエフスキー、クロヴィスと結構ヒントになりそうなワードが出てきてはいるんですが思い過ごしかもしれないし・・・。

まあ、快楽の園が連想されたのも完全に推量ですし何とも言えんですが。