dadalizerの映画雑文

観た映画の感想を書くためのツール。あくまで自分の情動をアウトプットするためのものであるため、読み手への配慮はなし。

2022/3

バトル・オブ・ザ・セクシーズ

思っていたよりも良かった。スポーツにおける性差、というか男女の(生物学的・社会的)性差を問いつつ、本質はマイノリティに向ける視座。でなければ、アラン・カミングをあそこに配置すまいて。というか、アラン・カミング力がすごい。どこまで脚色かわからないけれど、彼の存在感が絶妙に気が利いている。スタイリストの業界にああいう手合いが多いというのは洋邦問わずに描かれることなので、クリシェというよりは事実としてまあそうなのだろう。

ただ、この映画においてはラストの試合こそが良くも悪くもすべてではないかと思う。つまり、ジェンダーやセックス、あるいはエイジズムもろもろというのをすべて超えたところにスポーツというのはあるのだと。試合においては、特に1on1に近いものはただ「勝つ」という一念においてその身体を駆動させるわけで、その実力が拮抗すればするほどにその思いは純化されていく。だから、外野の変容も含め、そういった純なるものに収斂され圧倒されていく。それがスポーツ(あるいは疑似的な闘争)というものなのではないか、というのは少年ジャンプ読みすぎだろうか。

とはいえ、それ自体にはラディカルさがあると言われると、むしろ乏しくはある。「ボルグ/マッケンロー」のそれと、着地点は近似していると思うし。違うのは、その試合そのものが「ボルグ~」においては重要だったのに対し、この映画はより社会的・フェミニズム的な視座によって芯が串刺しにされているため、結果が重要だということだ。とはいえ、そういったスポーツの純粋さみたいなものは、この映画はその試合の部分だけなので、当然といえば当然というか。

この映画の重要な部分はむしろキングを取り巻く人々のもたらす価値観の部分だろう。ボビーですら否定的に描かれてはいない。というと語弊があるのだけれど、しかし明らかに魅力のあるように描かれている。それをキングは道化と称しているが、それはボビー自身が理解している。そして、それを引き受けたうえで彼は自分の道を進んでいる。それも一つのピュアさだろうし、それが表出したあの試合を見たからこそプリシラはああいう決断をしたのだろうし。

もちろんキングとその夫ラリー、あるいはマリリンとの関係性もそうだろう。彼女らの選択こそが、ある意味でもっともラディカルで可能性に溢れていると言っていい。様々な意味における「性」というフレームに囚われないこと。無論、そこにはラリーの葛藤があったことだろう(しかしそれはビリーにも言えることでもある)。

とはいえ、結局のところそれを決めるのは本人たちだ。彼女らが幸せであるならば、何も言うまい。

 

あと地味にスコアが良いんですよね。すっと映像と一緒に耳に入ってきて、あまり主張はしないけれどしっかりと空気が伝わってくる。誰かと思えば「ムーンライト」でもやってたニコラス・ブリテル。この人も上手いなぁ。

 

鋼の錬金術師 シャンバラを征く者

通して観るの初めてだったことに気づく。そんなんばっかだなおい。

現実の世界へと、というのは発想として面白いものはあるのだけれど、いかんせん作品のトーンが常に微温的というか、アクションにしてもラースとグラトニーのところ以外はビミョーだし。

 

「影武者」

私は黒澤明が苦手だ。なぜなら長いのばっかだからなのと、時代物が苦手だから。

だから、この影武者はかなり面白いと思いつつも長くて集中力が続かないせいで途中で気分がダレてしまう。いや、面白いんですけどね。悲哀とか色々。

 

「長江哀歌」

汚くて美しい、という価値観。画面に横溢する浅黒い肌の筋肉をもつ労働者の、労働に、労働のみのため労働のみに鍛えられた凹凸のある肉体美。タバコと酒。これは、健康志向を目指す現代的なものとは異なる低階層の人の話だ。片腕のない人も含め、ある種のドキュメンタリーちっくなとられかたといい、不思議な…参照元の少ない自分からするとアピッチャポンの空気感に少し近い気もする。

 

 

「フルスロットル」(リメイク)

ポール・ウォーカーのもう一つの遺作。こう言う書き方をすると失礼だが、役者としての彼の存在感に相応しい気がする。けれどそれは貶しているわけではなくて、ビッグスターとは違う、サイズとしてニュートラルな(?)午後ローの良心的映画と一体の存在感を持つ彼の「ほどほどさ」は、CV高橋というのも相まってある種の安心感をもたらしてくれる。

車の挟みうち衝突とかカーペットくるりんとか、パルクール的な逃走アクションとか、あと単にバディものというので結構好きな映画だったりする。カット割過ぎてよく分からないことになってるところも多々あるけれど、午後ローの良心的(しつこい)映画としては中々良いのではないだろうか。まあ午後ローじゃなくてBSで観たんですけど。