dadalizerの映画雑文

観た映画の感想を書くためのツール。あくまで自分の情動をアウトプットするためのものであるため、読み手への配慮はなし。

トップガン マーヴェリック

本当は「犬王」観たかったんだけど、近所のシネコンでやっておらず、夜勤明けでもありさすがに遠くまで行くモチベーションがなかったので近所のシネコンでやってた「トップガン」を観る。だもんで、予告編までは割とウトウトと微睡んでいたりもしたのだけれど……まさかである。まさか、ブラッカイマー製作の映画でこんなことを書くことになろうとは思わなかった(失礼)。

 

これ、今年ベストかもしれない。や、今年は例年に比べてほとんど映画観てないんだけど、IMAXも相まって映画を観た後の興奮度では今年一番だった。

いやね、日本語版タイトルで「字幕:戸田奈津子」が出た瞬間の絶望&「生きとったんかワレェ!」な心の叫びとか、それに続く「デンジャー・ゾーン」のクソダさい字幕で噴き出してしまって(多くの人は「ややや けったいな」というフレーズが出てくると思うのだが、実はこの人「ボーン・アルティメイタム」(「ジェイソン・ボーン」でもやってたかもですが、あれは劇場で酔ってしまって意識的に目をつぶっていたので内容覚えてない)の テーマであるMOBYの Extreme Waysでも字幕を振っており、そっちもクソダさかったり、ほかにも「スピード」でもやってたりするし意外と色々やってる)、「おいおい大丈夫かいな」と日本人観客だけ余計なデバフを食らうという、いらんおまけがついてきて出鼻をくじかれたりもしてしまった。冒頭のこのあたりだけ字幕観ないように必死でしたよ。

 

続けて前置きすると、私は前作「トップガン」に対してはまっっったく思い入れがない。数年前に一度テレビで流し見した程度だったりするばかりか、予告編観るまで「前作で死んだのってヴァル・キルマーじゃなかったっけ?」と勘違いしてたほどである。それでもすんなり物語に没入できたし、変にこねくり回す脚本でもなければ奇をてらった演出があるわけでもない。前作のオマージュシーンというのもなんとなくわかるし、役者の表情の妙でエモーションをしっかり掻き立ててくれる。実際、涙腺が緩むシーンが結構あった。「遺族に言え」というセリフとか、マーヴェリックの過去を考えると(トム・クルーズの己に対する怒りを湛えた表情も相まって)その言葉の重みに私は思わずほろりとしてしまった。ほかにも色々あるのだけれど、戦闘シーンは言わずもがなでせう。私はミリオタ成分はほとんどないので、劇中の作戦や戦闘にどれだけのファンタジーが盛り込まれているのかはわからないし、わからない方がむしろ素直にノることができるだろうと思う。

むしろ、この映画はほとんど「パシフィック・リム」的なロマン一点突破の映画と言って差し支えなく、すべてはその一点の圧力を強めるために貢献しているといっていいのではないか。そのロマンとは何か。時代錯誤かつ抽象的であることを承知の上で、「男(の子)のロマン」と言い切ってしまう。

そのロマンを担うのは、言うまでもなくピートもといトム・クルーズ(と彼の男根のメタファーとして見立てるビークル)。

 

冒頭の架空の戦闘機(SR-72ダークスター)でマッハ10を出すまで耐えるピートがのちの訓練で9Gに耐える場面に反復され、それはピートというキャラクターが仲間を助け導くためにその力を証明する、確固たる意志を持つ者として観客に刻まれる。

すでに有人の限界としてのダークスターとテクノロジーのより進んだ無人機の話の対置は、終盤のF-14というオンボロ(にして前作でピートが搭乗していた機体)VS第5世代戦闘機で反復され、それはそのまま、還暦を迎えんとしているトム・クルーズがそれでもなお映画界の最先端を、CGという洗練され完成された技術に対しその老いたる肉体で以て食らいつこうとする姿でなくてなんであろう?

正直、トム・クルーズのアクション映画は内容以前に彼の「がんばり」が強調され喧伝され、観る前にその「がんばり」が刷り込まれることによって作品の良し悪しがうやむやにされるところがあり、またその「がんばり」がCGで代替可能であるのであれば観客としてはそこに宣伝効果以外の何を見出すべきなのか(まあこれは押井守を引用するまでもなく突き詰めていくと「すべてCGでいいのではないか」ということになるのだが)、ということを考えたりもしたのだけれど、しかしそれが映画として寓意的に描かれることで、「トップガン」という映画と「トム・クルーズ」という役者のレイヤーが合わさることで重層的になり強度を増す。

 

だが「男のロマン」は必然的に男根主義を呼び起こす。

亡き旧友の息子とトラウマ、過去の恋人との復縁・奮起、病に伏す親友との友情と別れ、上官との対立(を実力で説き伏せ和解)、部下を導き救い、その部下によって助けられる。綺麗なまでに「男のロマン」が詰まった物語であり、喪失した父性の回復とホモソーシャルをより強固なものにすることに貢献している。そして父性の回復とは、世界の父としてのアメリカの権威の回復であり、ぼかされこそすれ『ならず者国家』と形容された敵が所有する戦闘機のモチーフは明らかに旧ソ連・ロシアであり、またこれは別の人の指摘からだがF-14を所有しているという設定はイランを想起させるとのことだし、山間部というのも北朝鮮を思わせるものであり、すべては(そりゃ当然なのだが)アメリカの仮想敵国のミックスであり、それを時代遅れのF-14という機体ーー過去の栄華ーーで打倒する。

前作の女性キャラクターは登場させず男性キャラクターは続投(グースのダブルとしての息子ルース)させられる。老いた女性は廃し、その代わりに倫理的に許される程度の年齢の「美しい」女性キャラクターを(前作のちょっとしたネタを拾い上げる形で)あてがう。これをホモソーシャルの強化と言わずしてなんとするか。

つってもこれブラッカイマー製作の映画なので。せっかくトップガンの精鋭の中に多様性取り入れたのにほとんど活躍ないというポーズだけな感じとかさすがブラッカイマー。あなた、クレジットに何度「Bruckheimer」の表記が出てくるかお数えになって?

 

しかし、である。トム・クルーズという役者に完全にライドし、物語的にエモーションを掻き立て、倫理だとかそういう細かいところは音速に下に置き去りにしていく。それを実現するだけの画力がこの映画にはあると思うし、私はそれに完全にノックアウトされてしまったので、この映画の軍門に下ることにしました。

だって良いんだもん!という極めて○痴的な肯定の仕方しかできないあたりが自分の知性の限界である。すまない。

 

あと最後の主要キャストの紹介の仕方が80年代ハリウッド映画らしくて、それも良かった。「プレデター」とかああいう感じだったですよね、確か。ここで「プレデター」が出てくるあたりお里が知れてしまうのですが、事実としてその程度のお里出身なので仕方あるまい。