dadalizerの映画雑文

観た映画の感想を書くためのツール。あくまで自分の情動をアウトプットするためのものであるため、読み手への配慮はなし。

愛という闘争

まずい。

犬ヶ島」の感想を出だししか書いていないのに新しい映画を観て、あまつさえ「犬ヶ島」を後回しにしている始末。進研ゼミで今月分のテキストが終わっていないのに次の号が送られてきたときのような焦りに似たものが沸き上がってくる。

 

と、ここまでファントム・スレッドを観た日に書いた部分。

ここからが6月に入ってからの文なり。

 

えーどうしたものか。大声は言いにくいのですが、この「ファントム・スレッド」観ている間は楽しめたんですけど、こうしていざ感想を文章に書き下そうとするとあまり書く事が思い浮かばない。パンフレットの柳下毅一郎評がかなりうまく言語化しているので、不誠実ながらそちらを是非、とオススメして終わりたい気持ちもなくもない。

しかしやはりそれではあまりに不誠実なのである程度は書く事にします。

で、観て思ったのは「愛vs愛」。お互いが異なる愛し方でもってお互いを愛そうとすることによって生じる闘争が、この映画で描かれていることなんじゃないかと。面白いのは、監督自身が「この映画において、ファッション界やドレス作りは関係ない」と言っていること。つまり、これは特定の世界において特定の人たちだけの間で生じる闘争ではないということ。

さもありなん。レイノルズの自閉的なこだわりにも近い服への愛の注ぎ方はフィギュアを愛でるオタクのそれ。とはいっても、映画監督であるポール・良い方・アンダーソンがクリエイティブな世界に目を向けたのも必然ではあったわけで。

そんなオタクでヒッキーな天才レイノルズ(こうやって書くと「なろう」みたいだなぁ)は行きつけのカフェで働くお転婆(でもない)なウェイターのアルマ(ヴィッキークリープス演)を口説く。飛び抜けた美貌やスタイルを持っているわけでもない彼女を選ぶというのが、すでにからして通念的な価値観とは違うことがわかる。しかし、それはレイノルズが生み出すの服のマネキンとして価値を見出しているのであり(これはレイノルズにとっては愛なのだろう)、アルマからしてみればそれは彼女の愛とは違う。それゆえに齟齬が生じてしまい完全だったレイノルズの生活にヒビが入り始める。

しかし、完全であることはそれ以上はありえないということであるとブラックでマッドな研究者が申しておりましたように、アルマのおかげで飲み込んでいた不満を解消することさえできたわけです。

それによって二人の間の結びつきはより一層強まっていくのですが、それがさらに両者の愛の違いを如実に浮かび上がらせていく。

そして、そのズレがはぜたときに、巨大な揺れが発生する。アルマ地震である。これとかけているわけでは断じてありませんが、めちゃくちゃカメラが揺れるカットがありましたね。

「バケモンにはバケモンぶつけんだよ」

ということで、アルマはレイノルズの変態的バケモン的な愛に自身の愛を打ち勝たせるために毒を盛ります。

そして弱りきったマザコンハートを懐柔することで彼女は勝利を収め夫婦関係というトロフィーを獲得するのであった。

ところどころでヒッチコックを思わせるシーンがあったりするのも、わたしが上記のように思った要因としてあるかもですが、やっぱり本質的に恋愛って戦いなのですよね。

誰かが「恋愛ってスパイスにはならんよな、物語を暴力的にドライブさせはじめて、それ以外の要素を彼方に追いやるから」と申しておりましたように、それに集中してしまうのは、やはりそれが駆け引きを含む闘争であるからではないかとレイノルズとアルマを見て思いました。

レイノルズに一番近い存在である姉のシリル(レスリー・マンヴィル演)にさえ「彼女が好きよ」と言わせるアルマの魅力とは。というより、アルマに好意を抱くという逆説的な妙ちきりんさがウッドコックの血なのかもしれない。

でもまあ、なんだかんだでうまくやっていけそうかもね、この二人なら、といった感じで終幕。

しかし完璧主義者を据えて完璧の否定を描くというのはかなり屈折しているような、実はそれ以外に方法はないような、そんなよくわからない感覚に陥る。

 

しかしわたしが今作で一番好ましく思ったのは衣装!ていうかマーク・ブリッジスの仕事!

何を隠そう、わたしが衣装に目を向けるようになったきっかけが「イエスマン」のズーイー・デシャネルのドロドロゲロリンな可愛さにやられてしまったからなんです。もちろん、それはズーイーの本来の可愛さもあるんですが、その潜在能力を120%引き出すブリッジズの衣装が最高なんですよ。「イエスマン」の中では衣装を取っ替え引っ替えするんですが、家でのタンクトップとか黒メインの赤いアウトライン(ウォーゲームのオメガモンみたいな)のコートとかキラキラしたドレスとか、もうともかく「イエスマン」はズーイーのひとりパリコレ的な側面もあって、ともかくそれ以来マーク・ブリッジスには注目していたんですが、まさかこんな格調高いドレスのデザインまでできるとは思わなんだ。

まあ彼のウィキを見直したら「そりゃそうだ」という納得をしたんですが、ともかく彼の仕事がかなり生きていると思いますね、これは。