dadalizerの映画雑文

観た映画の感想を書くためのツール。あくまで自分の情動をアウトプットするためのものであるため、読み手への配慮はなし。

消化録と消化不良を引き起こす名作

「許されざるもの(1992)」「月曜日のユカ」「男の出発」

許されざる者」は正直、まとめて消化するには若干重い映画で困っている。

とりあえず「月曜日のユカ」から行きますか。こちらも、結構面白い映画ではありましたから。

まず冒頭の三ヶ国語ごっちゃ+日本語字幕が横浜という街の雑多性をユーモラスに表していてるのがすごい新鮮だった。あとオープニングが面白い。いわゆるオープニングのためのオープニング映像かと思いきやユカ(加賀まりこ)の撮影だったというのがアイデアをきかしていてハッとさせられる。ほかにも、所々でサイレント映画というかチャップリン的というか、コミカルな音楽に早送りのモーションをつけたりしていて、時代を感じたりはしますが画面に注意を向けてしまう。あと、ああいう編集をかけるときは必ず画面が縮まっていくんですが、あれはそういう仕様になっているのだろうか。

それと全体的に贅沢なフィルムの使い方してるなーと。人物や顔をカメラに収める位置なんかもすごい独特で、人物を収めるときに空間的余白を持たせたり、耳だけをアップにしたり、加賀まりこの顔面アップ長回しとか、ともかく印象的な画面が多かった気がする。

話はなんというか、フェミニスト(笑)が見たらちょっと怒りそうな内容ではあるかもしれない。ユカは無邪気というより何も知らない愚者で、常に目の前の男に全力で男を喜ばせることに喜びを感じているということに偽りがない。だからああいう顛末になるのだけれど、あれはあれで吹っ切れた感じがあって良いのかもしれない。最後のカットもフランス映画っぽくて洒落ている。

 

「男の出発」。出発と書いて「たびだち」と読ませるセンスの審議はここでは置いておくとして、なんかこれ、新人の通る道みたいなものを見せられてい感じがしてすごいもやもやする。ガンマンになりたい少年がガンマンの一行に加入し、いびられ・ミスして怒られ・人を殺し(許されざる者を観たあとだったので色々と思うところがあったりする)・最終的に別のコミュニティに属することになるという。

観ていてすごいムズムズする映画でした。

 

イーストウッドの「許されざる者」は結構ズシンとくるタイプの映画だったりするんじゃなかろうか。

パーフェクト・ワールド」のときもそうだったけど、イーストウッドはかなり怜悧な視線で物事を睥睨しているような気がするのですよねー。特に本作に関しては主人公のウィルに結構な思い入れがありそうなんですが(マニーと同じ年齢になるまで制作をストップしていたくらいだしbyウィキ)、それにしてはやはり冷静に俯瞰しているような。内容的にウェットになるんですけど、やっぱりどこか一線を引いているというか。冒頭と最後の説明字幕はぶっちゃけどうかと思うんですが、あれくらいの線を引いてマニーがどういう人物だったのかということを周知させる必要があったのだろうと思う。そうすることでマニーの悲哀やそれゆえに情感が伝わりやすくなっているというか。つまり、マニーの感情や行動原理に根拠付けをするために合理的な演出を行っているというか。

それが際立つのは、西部劇というものを本作が相対化しているからじゃないのかなーと。これまで数多くのガンマンを演じてきたイーストウッドが主演と監督を務めていることにもかなりの寓意というか意味があるはず。

どういうことかというと、西部劇という当然のように銃が登場しあっさりと人が死んでいくジャンルそのものへのアンチというか問いかけに思えてならない。それほどまでに、この作品においてマニー側(あえて「ヒーロー側」と呼びますが)の連中は人を殺すことに躊躇している。そこには過去の自分に対する禍根だったり、そもそも人を殺したことがないことからくる「殺す」こと「死ぬ」ことへの恐怖があるからだ。劇中でもマニーがはっきりと死ぬことが怖いと明言しているシーンがありましたから。

もちろん、というべきなのか。演出もピカイチですよねー。キッドが殺人の処女を切ったあとに酒に逃避し、それを促す。それ自体も、マニーが過去の自分と重ねているのだろうと思いながら見ていると親友のネッドが死んだことを告げられて自身も酒を口にし出すところとかさり気なく気が利いている。

ちょっと北野武の映画と似ている部分があるなーと思うのは、仁義というか義理という概念が物語の運動を促し、それそのものが人間(とそれが構築するコミュニティ)のシステムであると言い切っているようなドライで俯瞰したような部分があるのだと思えるのですよねー。どちらとも一発撮りをすることで有名ですが、そのへんも実は通底するものがあるかさこそなんじゃないかーと思う。うん、これは間違いなく傑作でしょうね。

それにしても「荒野の七人」を先に観ていて良かったですよ、ほんと。「許されざる者」を先に観てたらあんなに楽しい映画を素直に楽しめなかったはずだから。