そんなわけで、前回の記事の最後で触れていた「ブンミおじさんの森」についてと、あとほんとに一言ですが「ヘッドライト」について。
「地下室のメロディー」のヴェルヌイユ監督作。
この人の映画(といってもこの二つしか観てないけど)ってどうしてもこうも泡沫のような物語になるんだろうか。「ヘッドライト」に関してはいい年したおじさんの醜悪な部分がすごくつまっていて、淡々と進みはするけど面白い。
ただ本当に淡々としているから、かなり集中してないとすぐに気が散っちゃう自分には映画館とかで観たい映画かな。今作の不遇なヒロインを演じるフランソワーズ・アルヌールが可愛い。
で、「ブンミおじさんの森」について。
これはすごい不思議な映画。最初の20分くらい観ているとちょっとタルコフスキーを想起させるのですが、でも全然そういう映画ではなくて、むしろ黒沢清のような、しかし立ち位置としては黒沢清と対局にあるような人間的な温かみがあるというか。
わたしがウィラセータクンの名前を知ったのは、たしか2年前くらいに恵比寿ガーデンシネマに映画を観に行ったときのチラシか何かだったかと思うんだけど、まあまずは名前ですよね。表記揺れが激しいらしいのですが、アピチャッポン・ウィラセータクンという名前にまず注目してしまい、なんとなく頭の中にブックマークしていた。
で、それがこの間BSでやっていたのを観たという経緯なので、前から知ってはいたけどこの人自体についてはほとんど何も知らない状態。
まあ、バートンがこれを観て「ファンタジー」と称するのもわかる。わかるんだけど、それってつまり異界としての他者との邂逅だから、厳密にはこの映画そのものはファンタジーではないんだと思う。ていうか、バートンもそのへんはわかっていそうなコメントではあるんだけど。
タイの文化と日本の文化がどの程度の共通点を持っているのかはわからないけれど、多分、欧米人や北欧の人がこの映画を観た場合とではかなり印象が異なると思う。
というのも、この映画にはアニミズムが日常の範囲にあるからだ。猿人になってしまったブンミの甥っ子とか、カットを割らずにフィックスのままごく自然に現れる死んだブンミの妻の霊とか。少し驚きはすれど慄きはせず、その驚きも概念そのものに対してではなく「なんだよ、そこにいたのかよ」といった程度の驚きだし。
あと猿人が森の中で赤い目を光らせているのとか、モロに「もののけ姫」の猩々まんまだったりするのとかを考えると、やっぱりアジア的というかアニミズムだったり八百万とか付喪神とか、あの辺の文化に近いのだと思う。
だから、バートンが観たようにはわたしの目にはこの映画は映らなかったかなぁ。それでも、奇妙な体験をしたいのであれば割とオススメかもしれない。感性的に近いものがあるからこそ、むしろ大きな隔たりを見せつけられて奇妙な感覚に陥るし。
説明を排した部分やあまりにスローペースな作風はかなり好みの分かれる部類だと思うし、わたしも正直なところ集中が途切れたりしていた部分はあるので、なんとも言い難いところではあります。
でもまあ、中盤のナマズと王女の異種姦はエンドクレジットあたりの「前世を思い出せる男」から着想を得たという字幕で「あーもしかしてあれって前世かなぁ」とわかる感じではある(いやまあ、冒頭にも前世云々のくだりはありますが)ので、キューブリックが好きな人はそういう映像で語る作家だと思うのでオヌヌメかもですね。
ちょっとインタビューとか観たいけどアマゾンでスペシャルエディションのdvdが10万超えてて笑ったよ・・・。レンタルとかあるんだろうか、これ。