dadalizerの映画雑文

観た映画の感想を書くためのツール。あくまで自分の情動をアウトプットするためのものであるため、読み手への配慮はなし。

不死身なのにシス

試写会で観させてもらった「SISU/不死身の男」

いわゆるナチスものだが、まったくもってシリアスなものではなく、むしろバカ映画の類。上映後のトークライブ(なんと二人の内一人は宇川さん)で教えてもらったことなのだが、この映画の監督はハリウッドで映画作るのを目指しているらしく(現在進行形)、元々CMだったかMVだったかを仕事として作っているかたわら自主製作で作っていた短編がターミネーターみたいなもの(主演は今回の映画の主役と同じヨルマさん)だったらしく、その時点でまあどういう嗜好なのかというのは推して知るべしというところでしょう。

なお、この映画のタイトルであるSISUという単語(この単語についての説明が冒頭にテロップで表示されるのだが、「この言葉は翻訳できない」からの「不屈の精神を意味する~(意訳)」みたいな、言いたいことは分かるのだがちょっとギャグっぽくなってる感じで)は「意志の強さ」であり、決してあきらめない「強い心」のこと、みたいなようなのだ。で、監督がハリウッド映画を目指すきっかけになった「ダイハード2」などのレニ・ハーレン監督がハリウッドで撮れたのなら、ということで前述のとおり今もなおハリウッド進出を目指しており、その不屈の心こそがSISUだ、という旨をアフタートークでおっしゃっておりました。

 

で、本題の中身についてなんですが、90分というタイトなランニングタイムの割に色々と贅沢な間の取り方をしていて、それがフィンランドの荒涼として空が大きいロケとも相まってめちゃくちゃ重厚な映画に見えるんですよ。

この映画は無駄に全部で7つ(だったはず)のチャプターがでかでかと表示されるんですが、それもどことなく雰囲気を醸し出すのに一役買ってくれるんです。最初は。

ところが、まあ割と前半で「いやもしかして」となり、やがて「ははーん、さてはバカ映画だな?」と分かってきて(予告でわかるだろ)からはそういうマインドセット観れたので、そうと分かればもう素直に笑えましたよ。シュール・シリアスな笑いが散見されるので、これ。

執拗に犬だけは傷つけない(ナチ側の犬も)割には愛馬は爆散させて臓腑もろだし死体をてらいなく映して見せたりするバランス感覚とか、「お前らはゲノム兵か?」と思いたくなるようなヘボい偵察するナチ野郎とか(なおこの映画のコメントには小島秀夫もちゃんと寄せている)、かと思えばガソリンで犬の鼻を使えなくするというアイデアを盛り込んでみたり、「それで銃撃は防げないだろ!」とか「肉壁ぶあつすぎだろ!」とか、しまいには墜落した飛行機から何食わぬ顔で生存してそのままラストの幕引きまでいってみたり、とにかくもうシュールギャグの領域に到達してます。

いやまあ、最初の方で二手に分かれたナチス兵士の片方が(自分たちのまいた)地雷で爆死するところとか明らかに狙ってるので、そういう映画だということはわかるのですが、いかんせん役者の表情がみんなガチだし、こういうジャンル映画とは思えない間の取り方をするし、微妙に判断がつきずらいところがあるわけで。

ほかにも狙ってるのか違うのか分からないパロディっぽい場面(女衆のワイルドバンチ登場、博士の異常な愛情の爆弾落下ロデオなどなど)もあったり、そこだけトーンが変わってたりするのですが、全体としての雰囲気は壊していないのがまた面白い。

そういう意味ではアイデア自体は多い、と言えるかもしれない。無駄にグロい(本当に無駄に見えるんですよ、劇中での行動それ自体も。いや、アイデアを煮詰めずにそのままお出しされた感じが凄いんですけどね、首つられシーンの体を支えるためのぶっさしとか。後述しますが、この煮詰められてない感じというのは、的を射てるはず)描写が豊富だし。

曰く、とっちらかったアイデアを「SISU」という単語を使うことでまとめられたということらしいし。どんなマジックワードなんだ、と思うのだけれど観た後だと「SISUならしょうがないな」と思えるくらいには不死身なのでしょうがない。という説得力はある。なんで不死身なのか、という理由や理屈なんぞはいらないのである。地域的な日本より近しい国の出身であるリリコすら知らないフィンランド独自の言葉、SISU。強いというより本当にただ死なないという感じ(ダメージも結構負うが、戦闘継続する)は実写映画としては地味に新しいかもしれない。

 

ただなんというか、面白いんですけど、その面白さというのはなんか歪なバランスの上に成り立っていやしないか。というのが判明したのがやはりアフタートークの場で、どうやら監督はかつて映画を撮る際の資金集めの際に脚本に色々と口出しされたらしく、それがいやだからと出資者を絞って……というところまではいいのだが、なんと初稿の脚本にほぼ手入れをいれることなく撮影に入ったらしく、つまり細かい部分でみょうちきりんなバランスになっているというのはブラッシュアップされない荒削りなままの脚本でお出しされたからに他ならないのだ。

 

チャプターの表現にしても監督は実は割と反対っぽかったのが周囲に押し切られたとかだし、事程左様にこの映画は勢いで持っていくところが多い。しかしその勢いというのもどこか微熱っぽく、それこそが北欧の映画だからということなのかもしれないけれど、それがまた妙な味わいを引き出してくれている。

 

面白いかつまらないかで言えば間違いなく面白い(色々な意味で)し、90分ちょいなのでサクッと見れるのもよい。予告のツルハシ推しは詐欺とまではいかずとも誇大広告じゃないかと言う気はするけれど。

この映画のつくりにならって、この文章も推敲なしでこのままお出しすることにする。