dadalizerの映画雑文

観た映画の感想を書くためのツール。あくまで自分の情動をアウトプットするためのものであるため、読み手への配慮はなし。

ファーストタイム。スラダン

当方、これまでの生涯でスラムダンクはまったくのノータッチと言って良い人生を送ってきました。
ミームとか名言めいたものとして部分的に切り取られた断片を目にすることは何度もあったし作品それ自体は知っていたけれど、ぶっちゃけ映画が公開されてからも二週間くらいはまったく観るつもりはなかった。ただ、公開から時間が経つにつれ、明らかに原作に思い入れのないような人も太鼓判を押していたことや、公開前の炎上とまではいかないまでも場外乱闘からの掌返しの原作ファンの評判などもあり、そこまでのものならば、ということでようやっと観に行ってきた次第なのでございました。
あとまあ「金の国~」があまりにもあまりな、公開終了と同時に、なんなら公開中の今でさえ存在を忘れ去られつつあるしょうもないアニメ映画を観てしまったことの反動もあるかもしれない。

ともかく、原作ファンやテレビシリーズのアニメを観ていた人がどう感じるのかはわからないけれど、前述のように何の思い入れもない、私自身にとっても「THE FIRST」な、まったきフラットさを持った一介の映画観賞者として私はこの映画を観ました。

傑作でしたね、掛け値なしに。
まあ、正確には映画を観る前に「第ゼロ感」をリピートしまくってたので、劇中でかかった瞬間はもうパブロフの犬状態で脳汁ブッシャーではあったのですが、しかし劇中での編曲アレンジの仕方はYouTubeのPV単体のそれを(映画内での使い方として)余裕で凌駕してきてくれたので、別にそういうのを抜きでもぶちあがることは間違いない。というか、この映画はアニメーションは言うまでもなく全体的にサウンドデザイン、音響周りがめちゃんこ良い。シューズのキュッキュッという音とかボールのバウンドの音とか、サウンドやばいですマジで。クレジットを見ると音周りのクレジットが事細かに分かれてその数も他では見られないようなものが多かったので、音に関しては音楽だけでなくそういったSE一つ一つをとってもかなり力を入れていることが覗える。

いや、本当に、自分でもびっくりするほど良かった。これ去年のうちに見てたらベスト級だったんじゃないか。エモい(脳死)というのもあるのだけれど、ただエモいだけでない。私は涙もろいので、映画の良し悪しとは関係なしに泣ける場面で泣いてしまうこともままあるのだけれど、ことこの映画においてはそういったいわゆる「泣ける」場面ではなく純粋に映画的な素晴らしさに泣いたし、誇張ではなく興奮で鼓動が高鳴った。ひょっとすると初めてではないか、こんなことは。

それは私が原作の展開を知らなかったからというのもあるのかもしれないが、しかしそれを抜きにしてもクライマックスの後半戦ラスト数分は誰がどう見たって手に汗握って固唾を飲んでしまう。あのクライマックスの時間を味わうためだけにもう2,3回観に行ったっていい。ていうかそういう人がいるからこそ前評判を覆してのこの興行収入かつ評価なのだろうし。

ほかのいわゆるスポーツ系の映画ではあまりないと思うのだけれど、一つの映画の中で1つの試合だけで完徹するのですね、本作。今までそういう風に描かれてこなかったのは、単調になるしダレてしまうから、ということなのだろうけど、本作は物語全体の緩急に緩急をつけているからそういうのがない。試合シーンは基本的に動的(ゴリの倒れたところから復帰までのところのように、試合中でもゲーム自体が一時的に止まっているところは抑えているが)で、キャラクターの回想シーンは静的で、それはBGMや色彩設計の寒暖からも見て取れるし、回想によって私のような一見さんでも感情移入できるつくりになっている。本来なら試合展開やブザービートなどからも桜木が主人公なのだろうが、本作ではスポットライトが当たるのは宮城リョータで、この辺は原作ファン的にはどうなのだろうとちょっと思ったりはするのだけれど。
すでに書いたように私は本作についてまったく知らないが、宮城の視点から回想がフラッシュバック的に行われ、彼の視点からほかのキャラクター(とりわけ三井やゴリ)がどんなキャラクターなのかも描かれるため、視点がとっちらかることもなく各キャラクターの内面や関係性がそれとなく読み取れるようになっているのも秀逸な構成でせう。赤城と流川などはほとんど描かれたりはしないけれど、わからなくても察せられるくらいにはやはり描かれている。点を取った後にタッチしてすぐに反目し合うみたいなのとか、あるいは「初めてお前と喋った(意訳)」みたいな宮城と流川のやりとりとかで。

メリハリでいえば、カット単位での緩急も良い。ワンプレイの中でのスローモーションの使い方とか、くどくない適度な塩梅だし、そもそもがバスケットボールというフォーマットがサッカーなどと違って常に盤面が動き続け点を取り合い続けるものでありつつフィジカルが前面に出てくるものでもあるため、モーションキャプチャー(と、そこからアニメにするにあたっての膨大で繊細なレタッチ)による本領と言える。

観る前はフル3DCGだと思っていたのですが、試合以外では割とドローイングも使っているような気もする。本作のために動いている3Dモデルそれ自体に手を加えることのできる新しいツールを作ったということなので、その辺はよくわからない。
ともかくいえることは予告編の「大丈夫かこれ?」という不安は全くの杞憂でした。日本のアニメにおけるCGでいえば、今期では「トライガン」のオレンジのようにCGであることを全面展開することでディズニーのフルアニメーションじみた動性と2D作画では困難なグリグリ動くカメラワークだったり、「大雪海~」を手掛けているポリピクみたいなセルルックとそのモデリングに親和的な日本の「アニメ」的アニメーションの方向性があるが(まあポリピクはトランスフォーマープライムやクローンウォーズなど、アメリカンなCGアニメも得意としているが)、そういったのとは違うCG作画とアニメーションで、どちらかと言うと実写的ではあるのですが、マンガ的なカットだったりアバンに至るキャラクターの登場の仕方などなど、実写でやったらちょっとくさくなるようなものあり、そのバランスが絶妙。

何気に山王キャラのフォローもいれてたり隙がない。宮城リョータはもちろんバスケ選手としてはチビではあるのですが、しかし彼の母親と並んだ際には彼が母よりも頭一つぶんくらい大きくて、試合の中では物理的に小さくともその精神面での成長が絵的に表されていたりとか、試合シーンのスピード感・時間感覚が素晴らしすぎるのでともすれば回想や家族関連のシーンはダレがち(不要というわけでは全くないのだが)だけれど、やはりその辺の描写も良いのだ……。

とにかくこの映画は良い。リピートも納得の傑作。